2002/07/04 まちの中で(10) ドイツ流 学び舎(連載)
◆発達に応じ設計 教室の色・形変え
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| 包み込むような天井から照明器具が柔らかい光を放つ。「子どもの力を生かせる空間にしたい」と伊藤さん(京田辺シュタイナー学校で)
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子どもをはぐくむ空間や施設をつくるうえで、設計に携わる建築家が、どう子どもの心身の発達に配慮しているかが重要だ。京都市北区の建築家、伊藤壽浩さん(46)が手掛けた京都府京田辺市のフリースクールの学び舎(や)には、子どもたちの発達に応じて、いろんな気配りがされている。
ドイツの思想家・シュタイナーの教育理念に基づくNPO(非営利組織)法人「京田辺シュタイナー学校」。昨年春開校したばかりの同校は、小・中学、高校を合わせた十二年制で、七歳から十五歳までの約百人の子どもたちが学んでいる。
人間の成長を誕生から七年ごとに区切り、それぞれの時期の発達に応じて、音楽や身体表現を組み合わせた芸術的な授業を行うのが特徴で、六十か国以上に同様のシュタイナー学校がある。
伊藤さんは二十代後半の四年半ドイツに留学し、学生時代から関心を持っていたシュタイナーについて学んだ。帰国後、シュタイナー教育を学ぶ人々と交流を深めるうちに、幼稚園など教育施設の建設を頼まれるようになった。
京田辺シュタイナー学校の校舎は木造二階建てで、現在は二学年で一教室を使っている。これまでの学校では低学年の教室が一階に入ることが多いが、同校では一―四年と十一、十二年が二階、五―十年が一階という珍しい配置にした。
「自分が確立されていない時期はできるだけ守られた環境にして、体ができあがる時期に初めて大地に足を下ろすようにしたかった」と伊藤さん。住空間が心身に及ぼす作用を考え、学年ごとに形状や色も微妙に変えている。
一、二年生は包み込むような空間をイメージし、天井は円形に近い多面体。学年が上がるにつれ次第に丸みがとれ、七、八年生以上は、外に向かってエネルギーがほとばしるイメージを持たせた、外側が反ったような形だ。
植物塗料を使った天井の色も、一、二年生の優しいバラ色から始まり、三、四年生が動きのあるオレンジ、五、六年生がさらに躍動的で透明感のある黄色へ。思春期を迎える七、八年生になると、それまでの暖色から寒色へと移り緑、青、紫――となる。
教室の両側はテラス風の廊下にした。伊藤さんは「閉ざされた空間からいきなり外に出るのではなく中間領域が大切」と言う。自己を確立する内面と世界とつながる外面を結ぶ中間領域を意味している。
また、教室の照明器具は電球に竹と白い布のシェードをかぶせた手作り。雨の軌跡をたどろうと、屋根から流れ落ちた雨が地上の石積みの壁面を経て池に注ぐ仕掛けも作った。「五感によって直感的に物事をとらえる子どもには、触れたり見たりできる素材は多い方がいい」
二十年以上前、伊藤さんが最初につくったのは、出産を控えた若い夫婦の住宅だった。「子どもが育つ家の設計はこれでよかったのか」。その思いが、今の仕事につながった。「建物をつくることで一人の人間の成長に立ち会っている。その子が持つ能力が生かされる育ちの場であってほしい」